アイボリン

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フレンチアイボリー:象牙に似た魅力を持つ人工素材

19世紀後半、希少な天然の象牙は、その美しさと加工のしやすさから宝飾品や工芸品、日用品に至るまで幅広く使われていました。しかし、入手困難かつ高価であったため、一般の人々にとっては憧れの素材でした。そこで、天然象牙の代替品となる人工素材の開発が始まりました。様々な試行錯誤を経て、ついに1866年、ザイロナイト社によって画期的な新素材が誕生しました。それがフレンチアイボリーです。 フレンチアイボリーは、アイボライド、アイボリン、パイラリンなどといった別名でも知られており、セルロイドという熱で形を変えることのできる樹脂から作られています。セルロイドは加工しやすく、様々な形に成形できるため、天然象牙の精巧な彫刻や模様を再現することが可能でした。また、天然象牙に比べて安価に製造できたため、広く普及しました。 当時、高級な装飾品や日用品の素材として珍重されていた天然象牙は、乱獲によって象の数が激減し、ますます希少価値が高まっていました。フレンチアイボリーの登場は、この深刻な問題を解決する糸口となりました。象牙の需要を満たしつつ、象の保護にも繋がる画期的な素材として歓迎されたのです。 フレンチアイボリーは、主に宝飾品、櫛、ボタン、ピアノの鍵盤、万年筆のペン先、扇子、さいころなど、多様な用途に用いられました。天然象牙と見分けがつかないほどの美しい質感と滑らかな手触りは、人々を魅了し、20世紀半ばまで広く愛用されました。こうして、フレンチアイボリーは、天然象牙の代替品としてだけでなく、新しい時代の素材として確固たる地位を築いたのです。