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古代の留め金:フィビュラ

留め金は、古くから人々の暮らしに欠かせない道具でした。西洋文化圏においては、古代ギリシャやエジプト、ローマなどで衣服を留めるために用いられた「フィビュラ」と呼ばれる留め金が、現代のブローチの原型と考えられています。考古学の分野では、衣服を固定するためのピンやブローチ全般を広くフィビュラと呼ぶこともあり、その歴史は新石器時代や青銅器時代まで遡ります。 フィビュラは、単なる実用品ではなく、装飾品としての役割も担っていました。当時の衣服は右肩で留めるのが一般的で、フィビュラはその部分に用いられました。人々は、肩元で輝く美しい留め金によって個性を表現し、社会的地位や富を誇示することもありました。そのため、多くのフィビュラには、高度な技術を駆使した精巧な装飾が施されています。 フィビュラの種類は、時代や素材、用途によって実に様々です。材質には、金や銀、青銅、鉄、象牙、骨、宝石など様々なものが用いられ、大きさや形状も多種多様です。例えば、古代ギリシャでは安全ピンに似た構造のフィビュラが、ローマ時代には弓型のフィビュラが流行しました。また、動物や植物、幾何学模様など、様々なモチーフが装飾に取り入れられました。 フィビュラは、古代の人々の技術と美意識が凝縮された工芸品と言えるでしょう。小さな留め金の中に、当時の文化や社会、人々の生活の様子が垣間見られます。現代の私たちも、博物館などでフィビュラを目にする機会があれば、古代の人々の創造性と技術力に思いを馳せてみるのも良いでしょう。そこには、時代を超えて受け継がれてきた美の精神が確かに息づいているはずです。